はじめに

この記事では、アントニン・レーモンドが設計し、1960年に竣工した木造教会である聖ミカエル教会について、同じく彼が設計した他の木造教会建築と比較することを通して、近代建築史における価値を考察します。

最近でも、近代建築が取り壊されるというニュースが後を絶ちません。保存/解体の議論は本筋から外れるのでここで書くことはありませんが、ある建築について、その経済的価値だけでなく、文化的価値について理解しておくことはとても重要なことのように思います。

「文化的価値とやらを感じてみたい!!!!!」

そう思ったので最近訪れた建築について少し調べてみることにしました。

アントニン・レーモンドとは

まずは設計者であるアントニン・レーモンド(画像1)について見ていきましょう。

アントニン・レーモンド(Antonin Raymond, 1888年 - 1976年)は日本におけるモダニズム建築の先駆者として知られている、チェコ生まれの建築家です。1919年に帝国ホテル設計のためにフランク・ロイド・ライトの助手として来日してから、1920〜60年代にかけて、日本で数多くの重要な建築作品を手がけました。

レーモンドは日本の伝統的な建築様式とモダニズムを融合させ、シンプルで機能的なデザインを追求しました。彼の代表作には、軽井沢に建てられ、現在はペイネ美術館として利用されている夏の家(1933年)や、東京女子大学礼拝堂(1937年)などがあります。

彼の影響を受けた日本人建築家としては、前川國男、吉村順三、丹下健三などが挙げられます。これらの建築家たちは、レーモンドからモダニズムの思想や設計手法を学び、それを日本独自の建築に取り入れて発展させました。

聖ミカエル教会とは

今回取り上げる聖ミカエル教会(写真2)は、先ほど紹介したアントニン・レーモンドが設計した木造教会で、同氏による北海道唯一の建築です。

当時司祭だったB.D.タッカーからの強い要請により実現したこの建築は、レーモンドが個人として無償で引き受けたため完成するまで一度も訪れておらず、実施設計と施工は竹中工務店により行われました。

柱のない大きな空間を作るために、丸太を使った小屋組みによって屋根が作られていますが、祈りの場という教会の機能に応え、より天井高さを出すために登り梁による鋏状のトラス構造(写真3)が用いられています。

またそれに伴う外方向への力や、積雪による荷重に耐えるため、外壁にはコンクリートと煉瓦によるバットレスで補強がなされています(写真4)。

さらに側面の煉瓦壁は壁面がずらされてスリット窓が入っていて、祭壇逆方向からの自然光を取り入れていたり(写真5)、レーモンドの妻ノエミによる和紙を使った特徴的なステンドグラスがファサードに現れていたりと、構造とディテールとで工夫が見られる巧みな建築です。

特にディテールでは加えて、道産の木材をはじめとした素材を自然の風合いを残したまま意匠として生かすことで、表情豊かで温かく、包容力のある空間となっています。

聖パウロカトリック教会とは

一方、ここまで聖ミカエル教会について述べてきましたが、レーモンドはそのほかにいくつも教会建築を残しています。

特に同じ木造教会建築で似たものとして、レーモンドが夏の間よく過ごしたとされる軽井沢に建てられた聖パウロカトリック教会(1934年)が挙げられるでしょう(画像6)。

内部空間で聖ミカエル協会と同様に鋏状のトラス構造がむき出しになっていたり、和紙のステンドグラスが用いられていたりと、類似点がとても多いです。

積雪量による構造の違い

しかし聖ミカエル協会と比べてみると、聖パウロカトリック教会のトラス構造は簡素であり、梁も細くなっています。

構造力学の点からこの理由を考えると、これが札幌という地域が年間降雪量480cm程度(※1)の豪雪地なのに対して、軽井沢は降雪地であるものの、年間降雪量が140cm程度(※2)であり、札幌市ほど積雪による垂直荷重を考慮する必要がないためであると考えられます。

聖ミカエル教会の価値

先ほど紹介した通り、聖ミカエル教会は鋏状のトラス構造が剥き出しになっているため、構造の違いが意匠の違いとしてよりわかりやすく現れます。

総じてこのように聖ミカエル教会は、豪雪地域とも言える北海道の気候に適した形で、日本のモダニズム建築に大きな影響をもたらしたアントニン・レーモンドが残した木造教会建築として評価することができると考えられます。

おわりに

ここまで聖ミカエル教会について、この建築にどんな文化的価値があるのか考察してきましたが、構造が意匠に現れやすい木造建築は、そこに地域性が出やすいというのはシンプルでありながらとても興味深いなと思いました。

モダニズム建築を追求し、日本の木造建築を進化させたアントニン・レーモンドの功績は、客観的に見てもやはりすごいものだなと改めて感じました。

他の作品や、同年代の建築家、また影響を受けた日本人建築家がどのような作品を残したかなど、いろいろと興味が湧いたので、また自分なりに調べてみようと思います!

参考文献

(※1) 気象庁. "札幌(石狩地方)の過去の気象データ (1991-2020)". 気象庁ホームページ. https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/nml_sfc_ym.php?prec_no=14&block_no=47412, (2024-08-12).

(※2) 気象庁. "長野県軽井沢の過去の気象データ (1991-2020)". 気象庁ホームページ. https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/nml_sfc_ym.php?prec_no=48&block_no=47622, (2024-08-12).